協会レポート&ニュース

HOME / 協会レポート&ニュース

ヨガセラピストの本棚:心臓が危ない(長山雅俊先生)

2017年02月15日 | 新着情報

「心臓病」と聞くと、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか?恐らく、重篤で深刻なイメージではないでしょうか。

日本人の死因の1位は癌ですが、次いで心臓病が2位となっています。心臓病が癌と圧倒的に異なる点は、ひとたび発作を起こせば一刻を争う重大な病ということです。
もし、私たちの大切な家族や友人が心臓病で倒れたら・・・。もし、自分の心臓がおかしいと感じたら・・・。
医学の専門的な知識は簡単に得られるものではなく、医療従事者でもない限り普通の人がその時に適切な判断や行動と取ることは、容易ではありません。

誰かの為、自分の為に、心臓病について知ることが必要になった時には、是非ともこちらの本をお勧めします。
榊原記念病院の長山雅俊先生が書かれました「心臓が危ない」です。
心臓の役割や構造などの基礎知識から、高血圧、狭心症、心筋梗塞、不整脈などの疾病に関しても、誰でも理解できるようにわかりやすく説明してくださっています。

そして本書の最後のほうに進みますと、「心臓リハビリテーション」のことについて書かれています。
「心臓リハビリテーション」とはどんなものなのでしょう。

心臓外科の世界的権威である榊原什先生が発案された、患者さんに対して急性期医療後から社会復帰までを長い目でバックアップする方法であり、榊原記念病院では25年以上の歴史を誇ります。
具体的には医師の監視のもと運動療法をしたり、心臓病の講義を受けて自分の病気についての知識を身に付けたり、カウンセリングで生活習慣を見直したり、不安を吐きだして抑うつから解放されたり、患者さんが社会生活に戻られるまでのケア、そして再発のリスクを減らすケアとなります。

実はこの心臓病、予後の不安が大変大きいことが特徴であり、またいつあの発作に襲われるかと思うと体を動かすことはもとより、日常生活すらままならなくなるのが一般的なのです。
患者さんの不安を取り除き、これくらいなら動いても平気だという経験を積み重ね自信に変えていくには、救急設備が整った場所で医師の監視のもと、少しづつ身体を慣らしていける環境があるということは、心臓病患者さんにとってどれだけ心強いかわかりません。

実はこの「心臓リハビリテーション」(以下、心リハ)、アメリカやスウェーデンでは運動療法にヨガも取り入れられています。心リハではその患者さんの運動最大能力の40%~60%の強度で行うことが適切だと定められています。ちなみにヨガでは心地よいと感じる程度というのが目安になります。そしてヨガでは深い呼吸が自律神経に働きかけ、心拍数や血圧の安定を促し、さらには自己洞察力やセルフコントロール能力も養われ、自分で自分の体を守れるという自信につながっていきます。心臓病の講座を受け自分の体に何が起こっていたのかを学んだ方であれば尚更、ヨガの学びを合わせることでさらに再発のリスクを減らすことができるでしょう。実は心リハを継続されている心臓病患者さんは、健康で運動をしない人よりも、かなり長生きできるという報告もあります。
現代医療とリハビリを合わせることで、こんなに素晴らしい結果が得られるのです。

しかし日本の現状では、医学の発展に伴い、重症例は減り入院期間も短くなった今、「救命」=「治療の終了」という図式が「心臓リハビリテーションの普及」を妨げているという現実があるというのです。
長山先生はこう嘆いてらっしゃいます。
「今の医学があまりにも専門化してしまい、患者さんの気持ちや本当に必要としていることに気付きにくくなっている。」

日本での更なる心臓リハビリテーションの普及と、そこにヨガプログラムも仲間入りしている未来を願って止みません。

岡孝和先生にメディカルサポーターにご就任いただきました。

2017年02月14日 | 新着情報,協会報告

九州大学大学院医学研究院心身医学准教授の岡孝和先生に協会のメディカルサポーターにご就任いただきました。

岡孝和先生からのメッセージ

ヨガは健康な人のみならず、慢性疾患を抱えている人のストレスを軽減するための優れた方法であり習慣です。臨床効果に関する優れた論文も増えてきており、またストレスを改善する機序に関する研究成果も日進月歩です。
ただし、何らかの病気を抱えている人がヨガを練習する際には、主治医と担当のヨガ指導者からきちんとアドバイスをうけることが大切です。
医学的な治療を受けたうえで、日常生活の中に上手にヨガを取り入れてほしいと思います。

平成24-26年度厚生労働省科学研究費補助金「地域医療基盤開発推進研究事業」(研究代表者:岡孝和先生)によって作成されたヨガのエビデンスレポート(構造化抄録)集
http://www.ejim.ncgg.go.jp/doc/doc_e03.html

岡孝和先生のHPはこちら
http://okat.web.fc2.com/page02_04.html

がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版
http://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307101806

医療・介護の現場に活かすメディカルヨガ基礎講座(茨城)

2017年02月14日 | 協会報告

茨城県看護協会様で行われました、第一回・医療・介護の現場に活かすメディカルヨガ基礎講座(茨城)が無事終了いたしました。半数以上が医療従事者の方でしたが、医療従事者とヨガセラピスト、そしてヨガは初めてという方々、様々なバックグラウンドを持たれた方の交流が、とても良い学び合いの時間になりました。

講座で学ぶポーズは、病気を抱えた方やヨガが初めてという方向けに大変簡単なものになっています。
スタジオで行うようなポーズではないヨガを、丁寧に伝える練習を行いました。
受講された方々の多くから「ヨガの初心に戻れた気がする」という感想をいただきました。

最も活気にあふれた「禁忌への対応と応用」
全てのチームに医療者の方がいたことから、具体的な症例についての禁忌は具体性を帯び、各チームごとに発表を行いました。

同じ志を持つ仲間がお互いに励ましあって、それぞれができることから始め、未来を作っていきます。

下記、参加された皆様からの感想です。(ご本人の許可のもとご紹介させていただいております)

第一回「医療、介護の現場に活かすメディカルヨガ基礎講座」には医療従事者、ヨガインストラクター、患者さんのご家族、患者本人、いろんな立場の方々が集まり、いろんな方向からヨガを見つめることができました。
そして医療とヨガの接点、架け橋になりました。またヨガセラピストとヨガインストラクターの役割の違いも確認することができ、気付きと学びの多い2日間でした。
看護士さんや薬剤師さんのお話も聞けて、自分の辿って来た病の道も確認でき、知らなかった医療的なことも教えていただけて、今後同じような立場の方とめぐり会えた時にお役に立てたらと思いました。
私自身がん患者であり、ヨガインストラクターとしてヨガをお伝えしておりますが、「寄り添うヨガ」を目指していきたいと思います。
自分自身への寛容さを忘れずに笑顔が広がるようなヨガの空間を楽しみたいです。

次回は横浜での開催となります。
https://yoga-medical.org/learning/888/
医療とヨガに興味をお持ちの方、みなさまのご参加をお待ち申し上げております。

「Patient-reported outcome」で評価されるヨガセラピー

2017年02月8日 | 関連記事

Patient-reported outcomeは臨床試験で医師を介さずに患者さんご自身が効果を評価するものです。
近年医薬品の臨床試験においても患者さんの生活の質(Quality of life:QOL)が注目されるようになりました。従来の臨床試験は医師による評価が主流でしたが、痛みをはじめ睡眠障害、不安、疲労、生きがい、幸福感、心の健康などに関し、医師評価の代わりに患者さんが自分自身を評価するPatient-reported outcomeが重要視されています。

ヨガセラピストにとってヨガは患者さんにどのような影響を与えているのかについてはとても興味深いところだと思います。最近ではPatient-reported outcomeを用いたヨガの臨床効果を検証する臨床試験の数も増えています。

10月にメタボリックシンドロームのリスク低減のためのヨガの効果についてPatient-reported outcomeを用いて評価した無作為化比較パイロット試験の結果が公表されました*。

67人のメタボリックシンドロームのリスクのある成人(平均年齢58歳、男性50%、79%が非ヒスパニック系白人)が対象となった試験で、健康教育と12週のヨガプログラムを実施した群と、健康教育のみを実施した群とでストレス、QOL、心理的アウトカムを評価しました。プレリミナリーな結果として、健康教育とヨガの両方を施行した集団は、ヨガを施行していない集団に比べて、身体的・精神的に健康状態が大きく改善されたことが示されました。

この臨床試験ではPatient-reported outcomeのツールとして、ストレスを評価するもの(PSS)、気分状態を評価するもの(POMS)、健康コンピタンスを評価するもの(PHCS)、マインドフルネスを評価するもの(FFMQ)、身体的・精神的健康状態を評価するもの(SF36)が使用されていました。

今後もヨガセラピーの臨床試験の評価として、Patient-reported outcomeが注目されていくことでしょう。

* Sohl SJ, et al., Evid Based Complement Alternat Med. 2016;2016:3094589. Epub 2016 Oct 26.

自閉症とヨガ:研究

2017年02月7日 | 関連記事

アメリカでここ数年急速に導入が進んでいるのが、教育現場へのヨガの導入です。
子供たちの心と体のケアに具体的な方策が必要になっている社会状況の反映でしょうか。
中でも、自閉症やアスペルガー症候群の子供たちの認知行動療法への応用としてヨガセラピーが取り入れられるケースが増えてきています。

Phase III などの臨床試験が行われており、かつその結果が良好な がん x ヨガなどに比べ、自閉症に関する大規模臨床試験はまだ始まっていません。
しかし、実際に教育現場での導入が普及し、教育者や両親、子供たちにとってその効果が予測・実感できるようになってくれば、数値的な証明への要請も高まり、今後エビデンスも構築されていくことでしょう。

ここでは、二つの臨床事例をご紹介させていただきます。

Sleep Disorder, Gastrointestinal Problems and Behaviour Problems Seen in Autism Spectrum Disorder Children and Yoga as Therapy: A Descriptive Review.
自閉症の子供達の睡眠障害、胃腸不良、問題行動と、ヨガというセラピー、記述的レビュー

Narasingharao K1, Pradhan B2, Navaneetham J3.
J Clin Diagn Res. 2016 Nov;10(11):VE01-VE03. doi: 10.7860/JCDR/2016/24175.8922. Epub 2016 Nov 1.

ASDの子供達は神経の病状そのものだけではなく、不眠や不良が問題行動を引き起こしているということが研究で分かっている。特に問題となるのは、子供達の世話をしている母親との関係に高いストレスをもたらすことだ。心理的レベルでの行動介入がヨガでこのような問題を解決するために行われている。ヨガは安全に行えば害がなく、心と体に変化をもたらす代替療法である。自閉症の子供達のケアにあたる両親たちも高血圧や、糖尿病、関節炎などの影響を受けやすくなると言われている。親によるヨガの介入は子供達と両親、そして家族全体に良い影響を与えるだろう。

Relaxation response-based yoga improves functioning in young children with autism: a pilot study.
パイロットスタディ:リラクセーションを目的としたヨガが自閉症児童の機能改善をもたらした

Rosenblatt LE1, Gorantla S, Torres JA, Yarmush RS, Rao S, Park ER, Denninger JW, Benson H, Fricchione GL, Bernstein B, Levine JB.
J Altern Complement Med. 2011 Nov;17(11):1029-35. doi: 10.1089/acm.2010.0834. Epub 2011 Oct 12.

目的:緩やかな動きのヨガによる保管代替療法的アプローチが、自閉症児童に及ぼすセラピー効果の検証
対象:ASDの診断を受けた、3-16歳の子供達24名
介入:8週間に渡る、リラクセーション反応を目的としたヨガ、ダンス、音楽療法
計測手法:BASC-2(The Behavioral Assessment System for Children, Second Edition) 並びに ABC(Aberrant Behsavioral Checklist)
結果:5-12歳の子供達に、BASC-2にはっきりとした変化が見られた。予想に反し、BASC-2での自閉症児に特有な項目において、治療後の数値は優位であった。(p=0.003)
結論:リラクセーション反応を意図した、動きを伴ったヨガとダンスは自閉症児童、特に就学前の子供たちの、行動改善に効果があった。

自閉症とヨガに関する記事はこちら

《お知らせ》

協会では「自閉症とヨガ」の分科会の座長を募集しております。
この分野に関心のある方は、一般会員としてご入会の上「座長希望」の旨問い合わせフォームよりご連絡をお願いいたします。

分科会についてはこちらをご覧ください。