「Patient-reported outcome」で評価されるヨガセラピー
Patient-reported outcomeは臨床試験で医師を介さずに患者さんご自身が効果を評価するものです。
近年医薬品の臨床試験においても患者さんの生活の質(Quality of life:QOL)が注目されるようになりました。従来の臨床試験は医師による評価が主流でしたが、痛みをはじめ睡眠障害、不安、疲労、生きがい、幸福感、心の健康などに関し、医師評価の代わりに患者さんが自分自身を評価するPatient-reported outcomeが重要視されています。
ヨガセラピストにとってヨガは患者さんにどのような影響を与えているのかについてはとても興味深いところだと思います。最近ではPatient-reported outcomeを用いたヨガの臨床効果を検証する臨床試験の数も増えています。
10月にメタボリックシンドロームのリスク低減のためのヨガの効果についてPatient-reported outcomeを用いて評価した無作為化比較パイロット試験の結果が公表されました*。
67人のメタボリックシンドロームのリスクのある成人(平均年齢58歳、男性50%、79%が非ヒスパニック系白人)が対象となった試験で、健康教育と12週のヨガプログラムを実施した群と、健康教育のみを実施した群とでストレス、QOL、心理的アウトカムを評価しました。プレリミナリーな結果として、健康教育とヨガの両方を施行した集団は、ヨガを施行していない集団に比べて、身体的・精神的に健康状態が大きく改善されたことが示されました。
この臨床試験ではPatient-reported outcomeのツールとして、ストレスを評価するもの(PSS)、気分状態を評価するもの(POMS)、健康コンピタンスを評価するもの(PHCS)、マインドフルネスを評価するもの(FFMQ)、身体的・精神的健康状態を評価するもの(SF36)が使用されていました。
今後もヨガセラピーの臨床試験の評価として、Patient-reported outcomeが注目されていくことでしょう。
* Sohl SJ, et al., Evid Based Complement Alternat Med. 2016;2016:3094589. Epub 2016 Oct 26.
自閉症とヨガ:研究
アメリカでここ数年急速に導入が進んでいるのが、教育現場へのヨガの導入です。
子供たちの心と体のケアに具体的な方策が必要になっている社会状況の反映でしょうか。
中でも、自閉症やアスペルガー症候群の子供たちの認知行動療法への応用としてヨガセラピーが取り入れられるケースが増えてきています。
Phase III などの臨床試験が行われており、かつその結果が良好な がん x ヨガなどに比べ、自閉症に関する大規模臨床試験はまだ始まっていません。
しかし、実際に教育現場での導入が普及し、教育者や両親、子供たちにとってその効果が予測・実感できるようになってくれば、数値的な証明への要請も高まり、今後エビデンスも構築されていくことでしょう。
ここでは、二つの臨床事例をご紹介させていただきます。
自閉症の子供達の睡眠障害、胃腸不良、問題行動と、ヨガというセラピー、記述的レビュー
Narasingharao K1, Pradhan B2, Navaneetham J3.
J Clin Diagn Res. 2016 Nov;10(11):VE01-VE03. doi: 10.7860/JCDR/2016/24175.8922. Epub 2016 Nov 1.
ASDの子供達は神経の病状そのものだけではなく、不眠や不良が問題行動を引き起こしているということが研究で分かっている。特に問題となるのは、子供達の世話をしている母親との関係に高いストレスをもたらすことだ。心理的レベルでの行動介入がヨガでこのような問題を解決するために行われている。ヨガは安全に行えば害がなく、心と体に変化をもたらす代替療法である。自閉症の子供達のケアにあたる両親たちも高血圧や、糖尿病、関節炎などの影響を受けやすくなると言われている。親によるヨガの介入は子供達と両親、そして家族全体に良い影響を与えるだろう。
パイロットスタディ:リラクセーションを目的としたヨガが自閉症児童の機能改善をもたらした
Rosenblatt LE1, Gorantla S, Torres JA, Yarmush RS, Rao S, Park ER, Denninger JW, Benson H, Fricchione GL, Bernstein B, Levine JB.
J Altern Complement Med. 2011 Nov;17(11):1029-35. doi: 10.1089/acm.2010.0834. Epub 2011 Oct 12.
目的:緩やかな動きのヨガによる保管代替療法的アプローチが、自閉症児童に及ぼすセラピー効果の検証
対象:ASDの診断を受けた、3-16歳の子供達24名
介入:8週間に渡る、リラクセーション反応を目的としたヨガ、ダンス、音楽療法
計測手法:BASC-2(The Behavioral Assessment System for Children, Second Edition) 並びに ABC(Aberrant Behsavioral Checklist)
結果:5-12歳の子供達に、BASC-2にはっきりとした変化が見られた。予想に反し、BASC-2での自閉症児に特有な項目において、治療後の数値は優位であった。(p=0.003)
結論:リラクセーション反応を意図した、動きを伴ったヨガとダンスは自閉症児童、特に就学前の子供たちの、行動改善に効果があった。
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勉強会の開催について
協会では講座の他に、勉強会を多数開催していきたいと考えています。
なぜ勉強会主体なのか。
それは、ヨガセラピーおいて大切なのは、理論や技術の習得だけではなく、自ら学び、考え、行動に移していく力をつけていくことにあるからです。
理論や臨床検証は大切です。それがないと社会で安心して使っていただくことができないからです。
しかし、ヨガセラピストにとってそれは出発点にしか過ぎません。
ヨガセラピーが取り組む様々なテーマにおいて、社会に対ししっかりした提案をしていくためには、ヨガのテクニックや理論の学びだけでは十分ではなく、実践のためのシステムデザインの視点が大切になってきます。
ヨガセラピーの良さをしっかり自分たちに落とし込むには、現場で何が問題となっているのかを話し合い、アイデアを出し合い、体感し合うこと。特に日本人は、勉強するのは得意ですが、アウトプットが苦手だと言われています。
協会の勉強会は、インプットしあい、お互いに励ましあいながらアウトプットにまでつなげていくエンジンとなりたいと考えています。
勉強会にはテーマに関心がある方であれば、どなたでもご参加いただけます。
なお参加に際し、課題図書が指定されることがあります。各自事前に購入の上、読了が参加条件です。
参加者同士の単なる対話ではなく、これからのメディカルヨガのJapan Way 創出のための対話を大切にしていきます。
勉強会の開催予定につきましてはこちらをご覧ください。
Photo by Nozomi Fujimura
クレドについて:言葉のガイドライン
一般社団法人日本ヨガメディカル協会の理念や倫理規定が記載された手帳「クレド」のご紹介です。
クレドとは同じ感性と価値を共有し、同じものさしで行動できるよう心を導く、言葉のガイドラインです。
手帳には、ヨガセラピーやメディカルヨガという言葉の定義、協会の倫理規定、などが記されております。
また、手帳の一番最後には、協会の理念にご賛同いただき、ご入会をいただきました証として「会員の証」のページもございます。(一般会員、学生会員、正会員が対象です。正会員制度は準備中となります)
ヨガセラピーの気づきを記す、自由記入欄もございます。
ぜひウェブサイトの協会の理念についてご一読いただき、この機会にご入会をご検討ください。
https://yoga-medical.org/guide/