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グリーフケアとヨガの可能性:社会資源としてのあたたかな受け皿

2018年12月11日 | コラム

埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科大西秀樹先生にメディカルサポーターにご就任いただきました。2018年12月8日に茨城県いのちの電話記念講演を拝聴し、協会のこれからの取り組みに必要とされることをまとめました。(文責:岡部 朋子)

大切な人を失った方には、不安、抑うつなど精神症状のほか、引きこもりなどの心理・社会的問題、心血管疾患罹患率の上昇、後追い自殺、などのリスクが高まります。しかし、適切な介入が不安や緊張を緩和させることがわかっています。

遺族外来・遺族支援の目的は「社会適応の援助」別な言い方をすれば、その方が愛する人との別れを経て、新たに歩んでいく世界を再構築していくのを支援していくことにあるそうです。悲しみを抱えながらも、その方が「もう一度生きていけるように支援すること」そのために遺族外来では個人精神療法、心理療法、集団精神療法、社会的問題への対応を行なっているそうです。

【人間は成長できる:PTSDからPTGまでを見守り寄り添う】

大西先生がおっしゃるには、人間は悲しみの中にあっても成長を遂げる生き物だということです。PTSD(心的外傷後ストレス障害)という症状がありますが、PTG(ポストトラウマティックグロウス-心的外傷後成長)という概念があることはあまり知られていません。PTSD を PTGにつなげていく上で最も大切なことは、見守る側の人間が「待つ力」なのだそうです。今を無理やり変えようとするのではなく、今の気持ちについての話を聞き、今後の支援を約束することで、希望を持ってもらうことだということでした。

【有用援助が必要とされている】

実際には喜ばれるであろうと思われる援助が実は有害援助だった、ということが少なくないとのことです。決してしてはいけないこととして「回復のアドバイス」があるそうです。回復のアドバイスをするより、一緒に泣いて抱きしめてあげたほうがよっぽど良いそうです。結局ご本人の気持ちはわかるはずはなく「わからないけど、わかりたい」というスタンスが大切なのだそうです。

また「立ち直る」「前向きに」という言葉もタブーとのことです。なぜなら、故人がいた世界に立ち戻ることは不可能であり、遺族の方は自分の世界を再構築していく必要があること。そして前向きで、と言ってもどちらが前かわからないからだそうです。

これをやると確実に鬱や悲しみを解決できる、というものは存在しないそうです。やってはいけないこと、は存在します。その上であえて有用援助とはどのようなものか、それは「そばにいる、感情を出せる、同じ人間としての目の高さ」このような受け皿があると、患者さんは自ら社会資源としての支援を選択・活用され、立ち直って行かれるそうです。

【ありのままというヨガの姿勢で待つ】

これまでのことは、グリーフケアをサポートするヨガを担当する方にとってとても大切な心得だと思います。つい「ヨガで悲しみが癒えますよ」「心身症が楽になりますよ」などと言ってしまいたくなりますが、そうではありません。

法華経に「常懐悲感心遂醒悟」という言葉があるそうです。これは、悲しみは遠ざけるものではなく、抱き続けるもので、そうするとやがて悟りがやってくる、という意味とのことです。また、大西先生が引用された柳田邦男さんの言葉「グリーフワークとは消すことのできない悲しみや辛さを抱えながらも、生きようとする意思がしっかり自分をコントロールできるようにする作業なのだと思う」

この生きようとする力が本人に湧いてくるまでヨガの「軽い運動による気分転換」「呼吸ワークによる情緒の安定」「リラクセーション」というテクニックを安全に提供できる社会資源としてのヨガクラスこそが、協会が提供していくべき受け皿なのではないかと考えます。

杉島小百合リーダーのもと、今後も各種勉強会を開催してまいります。