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成人の慢性疼痛に対する身体活動とエクササイズ(コクランレビューの概要)

2017年06月12日
背景:

慢性疼痛は、一般的に正常な組織が治癒する期間(12週間)を超えて継続する痛みを指す。慢性的な痛みは、障害、不安、うつ、睡眠障害、生活の質(Quality of Life: QOL)の低下、医療費の増加につながる。成人の平均2割が、慢性疼痛に悩まされている。長年、その治療法として、休息や安静などが推奨されてきた。しかし、身体活動やエクササイズは慢性疼痛を軽減するだけでなく、心身の状態や機能においてより幅広い効果をもたらすかもしれない。多様な医療の枠組みの中で、慢性疼痛の様々な症状に対して、身体活動やエクササイズはますます推奨され、実践されている。それゆえ、運動プログラムの有効性や安全性を確立すること、これらの方法が成功するか失敗するかを左右する要因に焦点を当てることが、現段階で重要である。

目的:

成人の慢性疼痛に関するコクランレビュー概要の目的は、以下である。
異なる身体運動やエクササイズの介入による痛みの軽減効果や、身体機能、QOL、医療での実用での有効性を示す。
身体運動やエクササイズに関連する副作用や有害事象のエビデンスを示す。

方法:

ランダム化比較試験を行う為、恣意的に設定した2016年3月21日(CDSR 2016, 第3版)までの更新版レビュー、未完成レビューを追跡した後、コクランライブラリー(CDSR 2016, 第1版)上のコクラン・システマティク・レビュー(CDSR)を検索した。*AMSTAR法を用い、それらのレビューに用いられた方法の質を評価。そして、エビデンスの質をもとに、痛みの症状に関するデータ分析を試み、以下に関するデータを抽出した。(1)自己申告による痛みの重症度(2)身体機能(客観的、主観的に評価)(3)心理的機能(4)QOL(5)定められた介入への順守率(6)医療での実用・参加数(7)副作用(8)死

入手可能なデータが限られた為、運動による介入の直接的な比較や分析はできず、質的なエビデンスの報告となっている。
*AMSTR(A measurement tool to assess reviews、システマティックレビューの方法の質を評価するツール)

主な結果:

37,143人が参加した381件の試験を含む21件のレビューを対象とした。このうち、264件の試験(参加者19,642人)では、慢性疼痛を抱える成人を対象に、エクササイズを行った場合と、行わないまたは最小限行った場合を観察した。いずれも質的分析である。痛みの症状は、リューマチ性関節炎、骨関節炎、線維症、腰痛、間欠性跛行、月経疼痛、機能的頸障害、脊椎傷害、小児マヒ後症候群、膝蓋大腿である。これらのレビューはいずれも「慢性疼痛」「慢性広範痛症」を総称、または特定の条件として評価していない。介入の種類は、有酸素運動、筋力増強運動、柔軟運動、その他様々な動き、体幹やバランスのトレーニング、そしてヨガ、ピラティス、太極拳である。
AMSTARをもとにすると、これらのレビューは高く評価でき、バイアスリスク許容範囲内の試験を扱っていた。しかし、参加者の数の少なさ(ほとんどの試験で50人以下)、介入やフォローアップ期間の短さ(3〜6か月以上はほとんど評価されていない)から、エビデンスの質は低かった。適切ではあるが、エビデンスの質が低く注意をもって解釈する必要のあるレビューの中から結果を蓄積した。

*痛みの重症度:
幾つかのレビューは、エクササイズによる肯定的な結果を示した。3つのレビューのみ、エクササイズによる介入が満足な変化をもたらさなかったとしている。しかし、介入やフォローアップを通して、結果に一貫性がなかった。自己申告による痛みの変化の分類では、エクササイズは一貫性のある結果をもたらさなかった。

*身体機能:
これは最も結果が出た分類である。14件のレビューが、介入の結果、身体機能は非常に改善したことを示した。ただし、これらの結果の効果は小さい(大きな効果を報告したレビューは1件のみ)。

*心理的機能とQOL:
結果は一定ではなく、エクササイズが効果的だった、もしくは、エクササイズの有無で違いは見られなかったのどちらかだった。(ただし、肯定的な結果の効果の大きさは中小程度。2件のレビューは、QOLで高い効果を示した) 否定的な結果はなかった。

*定められた介入への順守率:
これは、いずれのレビューでも評価できなかった。しかし、途中でやめてしまうリスクは、グループ間の違いで顕著ではないが、エクササイズを行ったグループが若干高かった。(1000の参加者のうち82.8人/1000の参加者のうち81人)

*医療での実用/参加数:
いずれのレビューで報告はなかった。

*副作用、潜在的な有害、死:
18件のレビューで扱われた試験に関して、わずか25%が積極的に副作用に関して報告された。入手可能なエビデンスをもとにすると、ほとんどの副作用は、痛みの増加、介入の数週間後に沈静する程度の筋肉痛であった。1件のレビューは、副作用の例とは別に死亡例を報告した。統計上の有意性はないが、介入は死を予防することを示唆した。

筆者たちの結論:

慢性疼痛に向けた身体活動やエクササイズの効果を示すエビデンスの質は低い。これは、サンプルのサイズが小さく、研究が潜在的に検出力不足である為である。多くの研究が、適切に長い介入をしていたが、その後のフォローアップが6件を除く全てのレビューにおいて、1年以下と限定的であった。レビューによって結果に一貫性は見られないが、痛みの重症度の軽減、身体機能を向上させる効果は、中小程度あった。心理的機能、QOLに関しては、効果は様々であった。入手可能なエビデンスは、身体活動やエクササイズは、副作用がほとんどなく、痛みを軽減し、身体機能、QOLを向上させる介入であると示唆している。しかし、更なる研究が必要であり、参加者の人数を増やし、より広範囲な痛みの重症度を有する参加者を含めるべきである。また、介入自体やフォローアップの期間も長くすべきである。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/28087891/

*Geneen LJ, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017

翻訳:平山綾子

(注)以上はアブストラクト(要旨・抄録)の翻訳であり、原著論文の翻訳を経たものではありません。
また全ての研究には、研究の領域とその限界が存在します。