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【ヨガセラピストの本棚】第一感 (原題:Blink) マルコム・グラッドウェル

2018年06月4日

アメリカのヨガセラピストは時に全くヨガに関係のなさそうな本を教材書籍とするが、本書もその例外ではありません。

世間には第六感という言葉はあるが、理屈以前のひらめきである第一感(Blink) についての本です。理屈以前の話であるため、理屈以前では説明しにくいことなのですが、マルコム氏はこの概念をパブリックなメディア(ニューヨーカー)で堂々と問うたジャーナリストとして注目を集めました。本書は謙虚に「理屈以前」の事例を検討しながら説明を試みています。

一気に結論に達する脳の働きをAdavtive Unconciousness (適応性無意識)といいますが、現代の心理学で注目されている研究分野の一つです。これは、フロイトの精神分析でいう無意識とは別物です。フロイトのそれが、意識すると心を乱すような欲望や記憶、空想をしまっておく場所であるのに対し、適応性無意識は強力なコンピューターのようなもので、状況判断や、危険告知、目標設定、行動の喚起などを瞬時に行うものです。

ER(救急救命室)のモデルとなった、シカゴのクック・カウンティ病院の事例が非常に示唆に富んでいるのでご紹介します。

クックカウンティ病院は全米で初めて、ゴールドマンの心疾患リスク評価方を採用しました。1996年、ブレンダン・ライリー氏が医局長に就任してから、大改革が行われたのです。それは、胸の痛みを訴えて救急室に運ばれてくる患者の診察方法を根本的に変えようというものでした。

ライリーの指摘は、情報集めに熱中しすぎると、データに溺れてしまう。情報が増えるほど、判断の正確さに対する自信は、高くなる一方、皮肉なもので正確な判断ができなくなるということでした。頭の中にある詰め込み式の計算式に情報を追加しすぎ、ますます計算式が複雑になってしまうからです。当時のクック・カウンティ病院を始め、多くの救急病院での診察方法がそうでした。
それに大きなメスを入れたのがライリーだったのです。

クック・カウンティ病院の実験の教訓は「何かを判断する際、情報は多いほど適切な判断をくだせると、皆当たり前のように思い込んでいる」ということです。

それは、ヨガセラピーについても同じことなのです。私たちは、セラピーを行うにあたり、同じ様なことをしてしまう可能性が大いにあるのです。
生徒さんの症状は多様であり、ヨガセラピーは症状そのものを解決させるものではないということを忘れてはなりません。私たちヨガセラピストはそれを治療したり直したりする立場にあるわけではないのです。
むしろ、私たちは目の前の人を、変えたり直したりすることなく、ありのままを受け入れることから始めなくてはなりません。その上で、何をするのか、それはとてもシンプルなことです。

 (1)呼吸を整えること
(2)刺激を遮ること
(3)緊張を解くこと

倫理講座や認定説明会で説明していることですが、ヨガセラピーの究極のゴールはDeep Sleep, Less Stress です。それを妨げている、呼吸の乱れ、刺激過多、過緊張に対してヨガセラピーはシンプルに強みを発揮します。姿勢を良くしてください、ではなく、胸の緊張を緩めましょう、というアプローチです。

本書では他にも次の様なことに言及しています。

第一感といえども、曇ることがあります。
むしろこの、第一感の曇りがトラブルを引き起こすことがあります。例えば、私たちは興奮すると、人の心が読めなくなったり、時間がないと、先入観に引きずられたりするのです。これはマインドブラインドネスと言われたりします。慢性的なものは病気(自閉症など)とされますが、わかってきているのは、これが一時的に現れ、正常だと言われている人がひどく間違った結論を導き出すこともあるということです。

脳の一部に損傷があり、知識と行動のつながりが断たれてしまうと、自分の行動の結果をきちんと説明できるが、その通りに行動できない、という事態が起こります。しかしこれは、第一感の曇りによって、瞬間的に誰にでも起こりうるかもしれないのです。

著者のメッセージは、綿密で時間のかかる、理性的な分析と同じぐらい、瞬時のひらめきには大きな意味がある。そのことを認めることで、自分自身をもっとよく理解できるのではないだろうか、ということでしたが、私たちヨガセラピストが本書から学ぶこともまた、いわゆる第六感やチャクラ、というものだけではなく、もっと私たちが自然にもつ「なんとなく」という感覚を素直に信じてみませんか、ということではないでしょうか。
繰り返しになりますが、その意味を理解することで、私たちは目の前のことを変えたり直したりすることなく、ありのままを受け入れることができるのではないでしょうか。

ヨガセラピーの認定講座を制定するときに、ヨガ業界以外の方から多くご指摘を受けたのは、認定という高みを作ることによって、簡単なことをわざわざ難しく説明するセラピストが増えるのが心配だ、ということでした。ヨガの良さはシンプルなことなのだから、学びを深め、認定を受けたセラピスト達は、より物事をシンプルにし、相手の立場に立って分かりやすく説明できるようでありたいと考えます。

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なお、クックカウンティ病院の改革についてはJAMAで
Impact of a Clinical Decision Rule on Hospital Triage of Patients With Suspected Acute Cardiac Ischemia in the Emergency Department」というレポート(英語)としてまとめられています。興味のある方はご覧になってみてください。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/195118